たぶせ在宅クリニック 和歌山市の訪問診療

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院長コラムhead doctor’s blog

「135mlの幸せ」の意味とは26.4.6

在宅医療

前回のコラムに書いた方(Kさん)は、桜の開花を待って先日旅立たれました。
私達がKさんに提供したホスピスケアには、一体どんな意味があったのでしょうか?
3つの視点で私なりの振り返りをしてみました。

①Kさんにとって
Kさんはビールを飲む前は、「人生に悔いなし。私はもういつ逝っても構わない」が口癖でした。
その反面「ビールが飲みたい」とも言われていました。

Kさんは幼少の頃より大変なご苦労の連続だったようで、それと関係あるかどうかは不明ですが生涯独身でした。資格を取得後は仕事を熱心になさって、多額の財も築かれたそうです。
Kさんの人生のほんの一部しか知りませんが、私の中では「不屈」の精神で生きてこられた方と推察しました。

私が担当する患者さんは結構な確率で「早くお迎えが来て欲しい」と言われます。
でも本心で言っている人はほとんどおられず、多くの方は「この先に生きる希望がないなら、早く終わりにしたい」という気持ちで話されています。
ですから私に求められているのはその方にとっての「希望」を提供することであり、Kさんの希望はビールだった訳です。

案の定ビールが提供されてからは、(少なくとも私には)「いつ逝っても構わない」とはおっしゃらなくなりました。
Kさんは生涯独身でしたが、人生の最期の時間は孤独ではなく私達と共に過ごされたのではないかと私は確信しています。

②ご家族にとって
Kさんにはご兄弟がおられ、隣県から面会にも来られていました。
ご兄弟は私に対して「何も望むことはないから、とにかく看取ってやって欲しい」と話されていました。
前回コラムの写真を見たご家族がどのような感想を持たれたかは不明ですが、きっとご家族の期待以上の役割を果たせたと確信しています。

③訪問看護師や施設スタッフにとって
看取りを担当するのは職種に関係なく誰にとっても負担の大きいことで、正直キツイ仕事です。
Kさんも最終盤は終末期せん妄を認めて、施設スタッフも訪問看護師も大変でした。
このような状況において、施設スタッフ側から「ビール」の許可を求められたことはとても嬉しかったです。
実は最終盤までビールの許可を求められなかったら、私はKさんの個室内で2人だけでこっそりと乾杯するつもりで、じっと病状変化と施設スタッフの対応を見守っていました。

Kさんのケアを通じて、訪問看護師さんにもケアマネさんにも施設スタッフさんにも、人生の最終盤を担当する苦労と喜びについて学びがあったことでしょう。
この貴重な経験は今後のケアにも必ず活かされます。


不屈の人生を歩まれたKさんのご冥福をお祈り申し上げます。