たぶせ在宅クリニック 和歌山市の訪問診療

  • 〒640-8264 和歌山市湊桶屋町10 M&MビルA号室
  • TEL073-424-0207
  • FAX073-424-0300
メニュー

院長コラムhead doctor’s blog

マニアックな会話25.6.25

在宅医療

これ、何のプラモデルか分かりますか?
すぐに分かる人は相当マニアックな人です。

今春に担当していた患者さんの自宅に、これと同じ型の完成目前のプラモデルが置いてありました。
私は見た瞬間に「○○」ですねと言うと、「先生、知ってるの?」と凄く嬉しそうに笑顔になられました。

この患者さんは抗癌剤の副作用で、私が初訪問の時点で全身の強いしびれ+痛みが出ていました。
どれくらい強いかというと、体に軽く触れただけでも「痛い!」と大声で叫ぶ程で、体に触れる診察は全く出来ない状況でした。(専門的な評価スケールで、4段階中最も悪いグレード)
この方の腹水を抜く際には、最低3回(下見のエコー/消毒/針を刺す)体に触れないといけないのですが、顔を真っ赤にしながら歯を食いしばって我慢してくれました。

寝てても起きていても、とにかく体に触れる物すべてが痛いので、常に辛そうな表情で過ごされていました。
奥様は、元々我慢強い性格の本人が痛いと言うのは余程の痛みですと教えてくれました。
抗癌剤の副作用のしびれ(末梢神経障害性疼痛)は症状が固定してしまうと、もう何も手立てはありませんので、私にはどうすることも出来ません。
ですから私が訪問しても、常に辛そうな表情でした。

ご自宅の玄関に過去に製作されたプラモデルが飾られていたのでその事に触れると、「今作っている完成目前のモデルがあるんです」とおっしゃって見せて頂いたのが、「旧日本海軍の潜水艦 イ400型」です。
それから10分以上この艦(フネ)をネタに2人だけで盛り上がりましたが、その時だけは痛みのない活き活きとした表情が戻り、それをじっと見ていた奥様は「貴方良かったわね、先生が知っていて」と少し涙しながら話されたのが記憶に残っています。

少し前に「雪風」のお話しをしましたが、実は私、旧日本海軍のマニアなんです。
写真やプラモデルを見れば、大抵の艦の名前や特徴は言えます。
超マニアックな趣味ですが、この患者さんにはほんのひと時だけでも良いお薬になりました。
その後も苦しい時間が続いたのですが、熱心な奥様やご家族と共に最期まで担当させて頂きました。

年に1回、看護学校で在宅医療の講義をしていました。
「していました」という過去形なのは、今年が最後の講義だったのです。
少子化と4年制看護学部が増えたことで生徒が集まらなくなり、2027年春に閉校となるそうです。
私は3年制の2年生の講義を担当していたので、来年を待たずに今年が最後となりました。
寂しいですがこれが現実ですね。
私が将来在宅医療を受ける時、「学生時代に先生の講義を受けたんですよ」という訪問看護師さんに出会えたら、きっと泣いてしまうでしょうね。
さて、どうなることやら・・・。