院長コラムhead doctor’s blog
135mlの幸せ26.3.23
今回は珍しく現在担当している患者さんのお話しです。
80代の方で、元々はとある士業をなさっていて、業界団体の会長までされたそうです。
がんではありませんが病状がかなり悪い方です。
1カ月前には真っ赤な吐血をしました。
普通は即入院の病状なのですが、ご本人は絶対に病院に行きたくないとの1点張りで、入院せずに様子をみたら自然と血は止まりました。
その後も緩やかに弱っていくなかで、ポロリと「ビールが飲みたいね」とおっしゃいました。
現役時代は大酒飲みだったそうですが、私が把握可能な最低でも半年以上はお酒は飲まれていません。
この方は施設に入所されていますので、施設ルールとして当然アルコールは禁止です。
私から施設側にこの人だけ特別扱いしてとは立場上言えないので、まずはノンアルコールビールを飲んで頂きました。
しばらくはノンアルを飲まれていましたが、やはり「美味しくない」と話されました。
それを聞いた施設スタッフが私に、「(こっそりと)ビールを飲んでもらっても良いですか?」と。
「施設さんがOKなら、私はもちろんOKです」
そして今、ご本人に提供されているのが、135mlの最小サイズの缶ビールです。
若い時は大酒飲みだったそうですが、今はこの最小サイズでも残す日もあります。
「あ~、美味しい。ありがとう。皆さん、本当にありがとうね。」とニコニコしながら楽しまれています。
吐血をした人に(吐血の原因が治癒したかどうか確認せずに)アルコールを許可するのは、医師(特に消化器内科医)としては失格です。
紀元前の医師ヒポクラテスは、「患者に害を与えるな」という言葉を遺しています。
私がアルコールを許可したことは、患者に「害」を与えているのか、「薬」を与えているのか、評価は分かれるでしょう。
それでも私は、この患者さんが飲める限り135mlのビールを許可し続けます。
なぜならこの方にとって、135mlのビールが生きる唯一の希望ですから。
